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フィリピンで今売れているもの ——2026年の食トレンドと、日本食品へのヒント

 

フィリピンで今売れているもの
——2026年の食トレンドと、日本食品へのヒント

バナナリーフの上に並んだフィリピン料理
Photo by Eiliv Aceron on Unsplash

今回はフィリピン編です。カトリック・英語・OFW送金文化という、他の4か国とは根本的に異なる特性を持つこの市場。2026年の最新データをもとに、日本食品の可能性とリスクを整理します。

フィリピンは「別の東南アジア」——他の4か国との根本的な違い

シンガポール・マレーシア・タイ・インドネシアに続き、今回はフィリピンです。これまでの4か国はすべてアジア系宗教(仏教・イスラム教)が食文化に大きく影響していましたが、フィリピンは東南アジアで唯一のカトリック国家(国民の約8割)です。

この違いは食品輸出において非常に重要です。

フィリピン(他と違う点)
ハラール認証が一切不要
豚肉・アルコール・和菓子もそのまま輸出可能
英語圏のため資料・ラベル対応が容易
OFW送金が消費を下支えする独自構造
JPEPA(日比経済連携協定)で和牛が無税
シンガポール・マレーシア・インドネシア
ハラール認証が事実上必須
豚由来成分・アルコールの制限あり
現地語対応が必要なケースが多い
価格感度が相対的に高い
複雑な宗教系規制への対応が必要

つまり、フィリピンは「ハラール対応の壁がない分、日本の商品をそのまま持ち込みやすい市場」です。ただし、それはそれで別の課題もあります。

 

今のフィリピン食市場——注目の数字

カテゴリ 規模・成長 特記
コンビニ食品(F&B) 2025年:24億ドル(前年比+17%) 東南アジアで最も急成長の小売形態
ヨーグルト・乳製品 2桁成長継続(2025年) 健康志向の高まりで急拡大
食品EC市場 2025年:24.8億ドル(前年比+15%) 2034年までにCAGR 26.32%で成長予測
クイックコマース(即時配送) 7.3億ドル規模(2025年) GrabMart・foodpandaが牽引
日本産和牛輸入量 2023〜2025年で約1.6倍に急増 JPEPA適用で無税輸入が可能
米国産食品輸入 13億ドル(2024年・ASEAN最大) フィリピンは米国産の世界第9位の輸出先

出典:USDA FAS「Retail Foods Annual」(2025年11月)、ゴリラwiki(2026年5月)、JA十勝清水町(2026年2月)

OFW送金が消費を動かしている:2024年、フィリピンの経済成長率は5.6%でしたが、海外出稼ぎ労働者(OFW)からの送金収入は前年比26%増という驚異的な伸びを記録しました(出典:USDA FAS、2025年11月)。この海外送金が家庭に届き、食料・外食・デリバリー消費の強い購買力を生み出しています。フィリピンの消費は「国内経済の成長」だけでは測れない独自の動きをしています。

 

2026年のフィリピン食トレンド——4つのキーワード

1
コンビニ文化の爆発的拡大——「手軽さ」が最重要価値

フィリピンのコンビニエンスストア向け食品は2024年に前年比17%増と、東南アジアで最も急成長している小売形態です。2025年には24億ドル規模に達する見込みです(出典:USDA FAS、2025年11月)。

これは単なる「コンビニが増えている」ではなく、「食事の調達手段としてコンビニが日常の中心になっている」ことを意味します。手軽さ・即食性・手頃な価格のパッケージ食品への需要が急速に高まっています。

日本食品へのヒント:日本のコンビニ食品(おにぎり・お弁当・スナック・即席麺)の現地展開は、このトレンドに直接乗れる切り口です。ハラール対応不要なので日本仕様のまま参入しやすい点が他国と大きく違います。
2
交通渋滞がフードデリバリーを成長させる——独自の市場構造

マニラの交通渋滞は消費者の移動時間を通常の20〜25%増加させます。この「時間の機会損失」を避けるために、消費者は積極的にデリバリー料金を支払うという合理的判断をしています(出典:ゴリラwiki、2026年5月)。

食品EC市場は2034年までにCAGR 26.32%で323億ドルに達する見込みです。スマートフォンアプリ経由の注文が57%を占め、GCash・Mayaなどデジタルウォレットの普及がクレジットカードを持たない層の購入を後押ししています(出典:ゴリラwiki、2026年5月)。

日本食品へのヒント:デリバリープラットフォームへの参入は有効なチャネルです。ただし、フィリピンは島嶼国家のためコールドチェーン整備が複雑・高コストという制約があります。常温保存可能な商品から展開するのが現実的です。
3
日本食レストランの急増——和牛・酒類への需要が拡大

フィリピン国内の日本食レストランは2025年に940店舗まで拡大する見込みです(出典:JA十勝清水町、2026年2月)。マニラ首都圏を中心に、ブリ・マグロ・高品質な日本産魚介類へのレストラン向けニーズが拡大しています(出典:ジェトロ、2025年12月)。

2026年7月には大規模PRイベント「Sake Manila 2026」が開催されるなど、日本酒の需要開拓も進んでいます(出典:ジェトロ、2026年7月)。カトリック国家であるため、日本のアルコール商品をそのまま展開できるという大きな優位性があります。

日本食品へのヒント:和牛はJPEPAで無税輸入が可能という圧倒的な価格優位性があります。日本酒・梅酒など酒類も宗教的制限なしで展開できる。他の4か国では難しいカテゴリが、フィリピンでは強みになります。
4
米国ブランドとの競合——「親米感情」という見えないライバル

フィリピンは東南アジアにおける米国産食品の最大市場で、2024年の輸出額は13億ドル(世界第9位)に達しています(出典:USDA FAS、2025年11月)。歴史的背景から、フィリピンの若い消費者は米国ブランドに「安全・高品質」という強い信頼感を持っています。

ASEAN近隣国産の食品も、低関税・短リードタイム・安価な輸送コストで中間層向けマス市場を押さえています。日本食品は「プレミアムブランド」として差別化する戦略が必須です。

日本食品へのヒント:「日本産だから安全・高品質」という認知はフィリピンにも根付いていますが、米国ブランドへの親しみも強い。「日本ならではのストーリー・職人性・産地」を前面に出した訴求が差別化の鍵です。
 

フィリピン特有の参入障壁——3つの注意点

1
果物の「ポジティブリスト規制」——輸出できる品目は3つのみ

フィリピンの青果物輸入は厳格なポジティブリスト制を採用しており、日本から輸出できるフレッシュ果実は「リンゴ・ナシ・イチゴ」の3品目のみに限定されています(出典:ジェトロ、2025年7月)。シャインマスカット・桃・柿など日本が強みを持つ高級果物の大半は輸出不可です。

なお、イチゴは2024年12月に長年の技術協議を経て輸入解禁となったばかりです。マニラの富裕層向けギフトや高級ECでの「新規解禁プレミアム」として展開できるタイミングです。また生鮮果物には大腸菌O157:H7・サルモネラ菌の「25g中不検出」という厳しい微生物基準も求められます。

2
フィリピンFDAの「製品個別登録(CPR)」——バリアント・容量ごとに登録が必要

加工食品の輸入には、製品のフレーバー・味の種類(バリアント)ごと、さらに容量・パッケージサイズごとに個別のFDA登録(Certificate of Product Registration)が必要です(出典:USDA FAS、2025年11月)。

多品種少量を展開したい日本の加工食品メーカーにとって、初期の登録コストと時間(数か月以上)が重い負担になります。また近年、政府手数料が一律引き上げられており、中小企業の金銭的負担が増加しています。まず絞り込んだ品目で参入し、実績を積んでから品目を広げる戦略が現実的です。

3
VAT12%と追加諸税——「無税」でも最終価格は大幅に上がる

JPEPAで関税が無税になっても、フィリピン国内持ち込みには付加価値税(VAT)が一律12%課税されます。生鮮果物も例外なし。さらに輸入品処理費用・収入印紙代・コンテナセキュリティ料などの諸手数料が積み上がります(出典:ジェトロ、2025年7月)。

結果として現地スーパーに並ぶ段階では日本の小売価格を大きく超えた価格になりやすく、販売ターゲットが富裕層に限定される構造があります。価格設計は国内価格ではなく、VAT・諸費用込みの現地最終価格から逆算して行う必要があります。

 

知っておきたい「意外な事実」

FACT 海外送金の成長率(+26%)が、GDPの成長率(5.6%)の4倍以上

2024年のフィリピンGDP成長率は5.6%でしたが、OFW(海外出稼ぎ労働者)からの送金収入は前年比26%増という異次元の成長を記録しました(出典:USDA FAS、2025年11月)。

この莫大な送金マネーがダイレクトに家庭に届き、食品消費・外食・デリバリーの「見えない購買力」を支えています。フィリピンの消費市場は国内経済の数字だけでは読めない独特の強さを持っています。

FACT 日本産イチゴ、10年越しの技術協議を経て2024年12月にようやく輸出解禁

日本からフィリピンへのイチゴ輸出は、植物検疫上の長年の技術協議を経て2024年12月15日付で正式に解禁されました(出典:ジェトロ、2025年7月)。

それまで日本から輸出できる青果物はリンゴとナシの2品目のみでした。新規解禁されたばかりの今が、プレミアムギフト・高級ECでの先行参入の最大のチャンスです。「日本産の本物のイチゴ」というブランドが最も強く訴求できるタイミングです。

FACT マニラの渋滞が「食品ECの強制的な追い風」になっている

マニラ首都圏のピーク時渋滞による移動時間の増加は20〜25%。スーパーへの買い出しに数時間かかることも珍しくないため、消費者はデリバリー料金を支払うことを「合理的な選択」と判断しています(出典:ゴリラwiki、2026年5月)。

これがフィリピンの食品EC市場がCAGR 26.32%という驚異的な成長を続ける最大の物理的理由の一つです。ITリテラシーや文化だけでなく、「地理的インフラの問題」がデジタル購買を後押ししているという面白い構造です。

 

まとめ:「ハラール不要・英語対応・JPEPA無税」——参入しやすい市場かもしれない

フィリピンの最大の特徴を一言で言えば、「日本の商品をそのまま持ち込みやすい市場」です。

ハラール認証不要、英語対応で資料準備が楽、JPEPAで和牛が無税、アルコールも宗教的制限なし——これらはシンガポール・マレーシア・タイ・インドネシアでは得られない優位性です。

一方で、果物のポジティブリスト・FDA個別登録の負担・VAT12%の価格上昇という参入コストも現実にあります。また米国ブランドという強力な競合が消費者の信頼を既に掴んでいます。

「まず参入しやすい市場として試してみる」という位置づけと、「和牛・酒類・イチゴなどフィリピン特有のチャンス品目を狙う」という二つのアプローチが有効です。OFW送金に支えられた消費力とコンビニ・EC市場の急拡大は、今後も続く追い風です。